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もしも…文書管理ができていない状態で米国訴訟の対象になったら

日本でビジネスをしている日本企業だからといって、米国訴訟と無縁でいられるかと言ったら、そうでもなさそうです。米国訴訟に巻き込まれる可能性を想定し、訴訟を起こされたときのシミュレーションをしておくことが企業にとって助けになると語る、のぞみ総合法律事務所の結城大輔弁護士(日本・ニューヨーク州)が、文書・データ管理の必要性とその方法についてセミナーで語ってくださいました。以下に、セミナーの内容をまとめて紹介します。

 

日本企業が米国訴訟に巻き込まれる可能性

日本の親会社が米国訴訟に巻き込まれるのには、被告/第三者/原告の3つのパターンがあります。

日本の親会社が巻き込まれる典型的なパターンは被告とされるケースであり、具体的には、1) 日本の親会社の役員・社員が米国子会社の意思決定や事業に深く関与している場合、2) 日本の親会社の事業が、米国子会社の事業と密接に関連している場合、などと分析も可能ですが、実際には、3) とりあえず“ポケットが深い”、すなわち、お金を持っていそうだ、というだけの理由で、強引に、米国子会社に加えて日本親会社も被告に含められる場合が少なくありません。1)、2)はともかくとして、3)のように、とりあえずお金を持っていそうな親会社をとにかく巻き込んで被告にし、不都合な書類を出させて和解に持ち込もう、というのが日本企業の子会社を訴えてくる際の典型的な手法で、これに巻き込まれて苦闘する企業が多いのが現実となっています。

FY2018の数字を見てみると、連邦地裁の民事訴訟の、実に99.1%が法廷での本審理を待たずに終了しています(18.5%:訴状提出後、裁判官の関与なしに終了、69.1%:ディスカバリからプレトライアル開始前に終了、11.4%:プレトライアルからトライアル開始前に終了。出典:https://www.uscourts.gov/sites/default/files/data_tables/jff_4.10_0930.2018.pdf)。と言うのも、ディスカバリで出てきた相手方、そして自らの資料を見ると、訴訟で勝てそうかどうかが分かってくるため、それを踏まえて相手方と交渉して早く決着させるのが基本的な戦略となります。トライアル、すなわち陪審員による審理まで進んでしまうと、結論がどちらに転ぶか分かりませんし、陪審の準備をするだけで途方もない額の費用がかかるので、それを防ぐためにも可能な限り早いタイミングでの和解を目指すことになります。

 

ディスカバリで何をするか

米国民事訴訟の流れですが、提訴の後、訴状送達、答弁書提出があり、そこから例えば3カ月くらいでディスカバリの手続が始まるのが1つの典型的イメージです。当事者による協議、両当事者による初期開示、ディスカバリ計画の提出、当事者による質問書・文書等提出要求書送付、回答書送付・文書等送付といった流れとなります。そして、このいずれの段階でも和解交渉・成立があり得ます。

それと並行して、企業側では、ディスカバリに関する社内作業が進みます。すなわち、データの保全と収集、検討を進めます。

訴訟となると、社内ではまず、訴訟ホールドという社内通知を出します。「訴訟となりました」、ないし「これから訴訟になります」という段階で、社内の関係する人たちに対し、文書を破棄・隠匿・変更しないよう指示を出します。この訴訟ホールドを的確に行わなければ、それだけで重大な制裁や不利益を受ける可能性があります。訴訟に関連する可能性のある資料を捨ててしまったり削除してしまったりすると、企業に重大なペナルティが課されるおそれがあるので、訴訟に関係のある資料は社内できちんと保全をかけ、データベースに収集していきます。訴訟に関する資料を収集してデータベースに上げて整え、それを検討するのが「レビュー」と呼ばれる作業です。訴訟に関係するデータ、関係しないデータの仕分けをし、その中からさらに秘匿特権の対象になるもの、ならないものを仕分けて相手側に提出します。このレビューの対象となる文書・データの量は非常に多いので、このための弁護士費用が非常に大きな金額になります。

 

ディスカバリの大きな例外:秘匿特権

原告被告がお互いに、訴訟内容に関連する可能性のある書類・データを開示し合うのがディスカバリの原則ですが、弁護士・依頼者秘匿特権、ワークプロダクトの法理により、例外的に開示の義務を負わないという考え方です。弁護士・依頼者秘匿特権とは、弁護士と依頼者の間の率直なコミュニケーションを保護するもので、法的な助言のための秘密のやり取りは保護されます。ワークプロダクトの法理とは、訴訟の準備のために弁護士が作成した書類であれば、弁護士作成文書ということで、やはり相手方に開示する義務を負わない、という法理です。いずれもディスカバリの大きな例外として、極めて重要です。

 

日本企業とディスカバリ

日本企業にとって、ディスカバリの作業の中でまず最も重要なのが訴訟ホールドです。「削除してはならない」と言われても、これはまずいのではないか、という資料があると消したくなるのが人情かもしれませんが、技術的に復元可能であることが多く、本当にきれいに消したとしても、その何らかの痕跡が残ることが普通です。不都合なものだったから消したのだろうと認定され、重大な制裁を受けるため、そのような事態にならないよう、資料をきちんと保全して、提出すべきものはしっかりと提出することが重要です。

よく問題になるのが、個人情報や営業秘密を含む資料なども提出しなければならないのか、という問題です。この点、ディスカバリにおいては、個人情報や営業秘密の保護は一般的な例外扱いはされないため、裁判所の秘密保護命令を得て、当該箇所を墨塗りとするなどして保護してもらうことが重要です。

また、日本企業にありがちな問題としてよく挙げられるのが、大量のメールと資料の存在です。日本企業には古いデータがそのまま残っていることが少なくなく、それを収集してデータベースに乗せて検討しようとすると、想像を絶する額の費用がかかります。しかも、量が多ければ、その分問題になるような表現が含まれるリスクも増えると言えます。その点、米国企業では、受信トレイ、送信トレイ、削除済トレイは3ヵ月後に自動で削除されるよう設定しているところが多く(大事なものは別途取っておくよう推奨されます)、とにかくデータをコンパクトにしておくのが基本的な考え方となっています。

大量の文書をため込む以外にも、日本企業がおかしがちなミスとして、社内で、リスク状況を幅広く共有してしまうこと、断定的な表現を用いたり、法律的な概念(違法である、問題がある、など)について書いてしまったりすること、訴訟や紛争の内容に関する社内や親会社への報告をしてしまうこと、などがあります。米国企業では、社内に弁護士がいて法的な分析はすべて弁護士の関与のもと行われ、秘匿特権やワークプロダクトにより情報が保護されますが、日本の企業では往々にして法的な分析を弁護士の関与なく社内で行ってしまいます。ひとたび訴訟が起こると、このような情報がすべて社外に出て行ってしまうということを念頭において、資料作成には十分配慮する必要があります。

 

 

シミュレーションでイメージをつかんでおく

一般に、訴訟になったら1年、2年と審理が進んで初めて和解の可能性が出てくる日本の裁判と違い、米国訴訟ではいつでも和解の可能性があります。裁判が始まったらすぐにディスカバリの作業が始まるのですが、非常に不利な資料が社内で出てくると、戦い続けて極めて重い責任を負わされるよりも、それよりは少しでも有利な内容での早期和解を目指して相手方と交渉することになります。弁護士としても、もし自分のクライアントの状況(もともとメールがうまく整理されていて、数もさほど多くない、など)が分かっていれば、それを前提に、相手方弁護士とディスカバリの方針等についての協議・交渉を行うことができます。そのためにも、訴訟が起こったらどのように動くのか、弁護士とどう連携するのか、どこにどのような資料があるのかをイメージしておくことが重要です。

文書の整理は、訴訟ホールドが出てしまってからでは間に合いません。訴訟が起きてしまうと、流れに沿って進めていくしかなく、できる範囲は狭まってしまいます。そのためにも、平時の段階でディスカバリのシミュレーションを行い、文書の管理・廃棄ルールを定めておくことを推奨します。

 

 

日本企業でやっておくこと

  • 日頃のデータの管理、文書の管理

多くの米国企業では一定期間が経過した時点でメールが自動削除されるようになっているとは言え、もちろん社内、特に事業部門からの反発はそれなりにあります。それでも、その反発をはるかに上回るリスクとコストが、訴訟・ディスカバリで生じているので、「一定期間が経過したら消えます」というのがトレンドとなっています。

日本の民事訴訟には米国のようなディスカバリの負担がないので、日本企業が日本の民事訴訟だけを意識するのであれば、米国企業と対応を合わせる必要は必ずしもないものの、日本企業のビジネスのグローバル化が進んでいることに照らすと、今以上に文書の削除、データの効率的管理を意識してもよいのではないでしょうか。社内の資料(特にメール)が増えることについて、ほとんど問題意識を持たずに書いたり残したりする人が多いのは事実です。もちろん、日本の企業でも文書管理規則はあり、各文書の保管期間が定められていますが、その期限が来たからといって廃棄しているかと言ったら、大抵は持ったままです。まずはここから変えていくとよいでしょう。

文書を紙で残す文化は依然色濃く残っていますが、デジタルデータへの移行も進んでいます。しかし、文書管理規則を設けても、デジタルデータの管理ルールがはっきりしていない企業が多く存在します。訴訟になった場合、デジタルデータは最終版だけが問題になるのではなく、そこにいたるまでのドラフトのやり取り、コメント含めすべてが問題になります。その点も踏まえて、デジタルデータの管理・運用をどうするのか社内で確認しておくことをおすすめします。

日本企業の場合、例えば、米国に支社がある場合、米国ビジネスへの関連の強い部門・グループ会社において、米国訴訟をより意識した文書管理規則を設定し、そうでない部門は日本寄りにするという例もあります。

最後に、誰がイニシアチブをとるのか、ですが、これが意外と難問です。全社にまたがる話なので本来は法務がやるべきなのですが、法務の仕事としてあまり意識されておらず、いざやろうとすると、誰がイニシアチブを取るべきなのか判断に悩むことが多くあります。米国訴訟のリスクを踏まえ、法務がコントロールタワーとなって、担当役員から他の部門も含めて理解してもらい、IT部門と連携して進めていくパターンがよいのではないかと思います。

  • 秘匿特権の活用

社内でリスクがあるようなやり取りにはすべて弁護士が入って、弁護士に相談すれば、秘匿特権で守られるので、これが理想的ですが、現実的には、米国のように多数の社内弁護士がいる会社は日本では多くありませんし、やりとりにすべて弁護士を入れるのは現実的ではないことも少なくありません。ただ、それができないからと言って、リスク情報を紙に落とさなくなる、社内で共有しなくなる、というのは、企業として取り得ない選択肢でしょう。リスク情報を早期に共有したいのであれば、また、社内で法的分析・リスク評価をしたいなら、弁護士を含めるようにするのがおすすめです。

  • 社内研修のポイント

法務はもちろん、米国訴訟と関連のある事業に関わっている人がディスカバリや秘匿特権の基本を理解するのは非常に重要です。米国企業の感覚では、法務や弁護士でなくても「ディスカバリというものがあって、訴訟になると莫大な量の資料が出て行く」とか「訴訟ホールドを受けた」とか、「秘匿特権というものがあって、弁護士とのやりとりはよいけれど、それ以外のやり取りは後になってどこでどう問題になるかわからない」という感覚を、一般の従業員でも一定程度持っています。それを考えると、日本の企業でも、事業部向け研修と言う形で、訴訟の基礎やリスク、秘匿特権について理解しておいてもらうと、一定程度文書やメールにおける表現が変わってきたりします。よくあるのが出張者・駐在者向け研修です。出張に行くと、日本の法務担当者向けにリスク満載のメールを出張報告として送ったりして、後々それが問題になるケースがあります。米国の子会社からすると、日本の本社で、もっと技術者にも米国訴訟の基礎やリスクについて伝えておいてほしいところです。あとは、IT部門が何も知らないと初動が混乱するので、IT部門内に何人かキーパーソンを作っておいて、文書やデータマップを作っておくと、初動が大きく変わってきます。


FRONTEOのメール監査システム&サービス

AIメール監査システム

FRONTEOでは、大量の電子メールの中から要監査メールを抽出する、メール監査システム「Email Auditor」を提供しています。監査官の調査観点を学習した人工知能が大量の電子メールを解析。メールは、緊急度に応じてスコアリングされるため、監査担当者はスコアの高いものから順に目を通すことで、問題のあるメールに早い段階でたどり着き、必要な対応を取ることが可能となります。監査業務の工数を大幅に削減するとともに、内在するリスクを可視化することで経営危機から企業を守ります。

  • 運用:企業内(企業のサーバからクラウドにあげて解析)
  • 監査頻度:常時(一日の分を夜中に解析し、翌日確認という企業が多い)
  • 監査対象者:固定

http://www.kibit-platform.com/products/email-auditor/

 

AIメール監査サービス

常時監視を導入する段階にはないが、定期的には監査しておきたいという企業様におすすめなのが、AIメール監査サービスです。一か月単位、四半期単位でメールデータをFRONTEOに送付すれば、FRONTEOがAIを使ってメール監査を行い、調査内容を担当部署/役員に報告します。注意が必要と思われるメール内容を社内で精査することにより、ハラスメントや経費不正請求、キックバック、情報持ち出し、カルテル・癒着など、企業不正の予兆や不穏な動きの早期発見と早期対応に役立ちます。

  • 運用:企業がメールデータを提供。FRONTEOが監査して調査内容を報告
  • 監査頻度:1か月から3か月
  • 対象人数:3名程度の少人数から100名以上の大人数にも対応可能
  • 予兆検知内容(例):ハラスメント、経費不正請求、キックバック、情報持ち出し、カルテル・癒着、横領など

https://legal.fronteo.com/aimailaudit/

 

 

 

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