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2020年12月15日パーキンス・クイ法律事務所のご紹介
2020年12月18日TARの活用:相手側がTARの使用に反対している場合 <ブリヂストン・アメリカス対IBM>
Anitha Henderson, Esq.
参照:Bridgestone Americas, Inc. v. International Business Machines Corporation
(https://docs.justia.com/cases/federal/district-courts/tennessee/tnmdce/3:2013cv01196/57186/89)
米国訴訟では、原告被告双方が証拠として使える「事案との関連性の高い文書」を探し出すディスカバリという手続きを踏みます。この手続きには莫大な費用がかかることから、裁判所も含め関係者すべてがディスカバリにかかる費用の低減を図る方法を探しています。その場合に、公平性、公正さ、(証拠開示の有益性と負担の)釣り合いをおざなりにせず、これらについても一定レベルを保つことが期待されています。
米国の裁判所ではTAR (technology assisted review)の活用率が大幅な伸びを示しており、効果的に文書の選定/レビューを行う方法として活用を促す声も高まっています。しかし、依然として新しい技術であり、eディスカバリの専門家たちもTARの使用について争いのある事案については絶えず注目している状態です。
そのよい例が、ブリヂストン・アメリカス対IBMの事案です(これはセドナ・カンファレンスのeDiscovery law primer 2017にもリストされています)。当初は両者ともに用語検索の使用に対して合意していましたが、原告であるブリヂストン側がキーワード検索を行った結果、200万件を超える文書が見つかりました。ドキュメントレビューにかかるコストの概算が100万ドルを超えたことから、当初合意していたにもかかわらず、そしてディスカバリ段階が既に始まっていたにもかかわらず、プレディクティブコーディング(TAR)の使用を申し立てました。被告であるIBMはそれに対し、当初の合意に対する不当な要求であること、ディスカバリの途中で物事を変更することは公正ではないことを理由に反対の意を唱えました。本件について、両者間での合意に至ることができなかったため、裁判所に判断を委ねる結果となりました。
裁判所はIBMの反対を退け、ブリヂストン・アメリカスにTARの使用を認めました。裁判所は、TARを使用するかしないかについては、本来、裁判所ではなく当事者がそれぞれの置かれた状況(法廷戦術、判例法、予算など)に応じてそれぞれの当事者が自分で最善の決断をすべきだと強調しました。また、「単一の正しい解」は存在しない、として、TARの使用に関する規則を定めることを回避しました。また、裁判所は原告が「途中で軌道変更している」(ディスカバリが既に始まっているのにレビュープロセスを変更している)ことから、「オープン性と透明性」が非常に重要であると強調しました。裁判所の判断には、原告がプレディクティブコーディングに使用した最初のシードドキュメントを被告側に提供することも含まれています。
弁護士の見解
ここでは裁判所が「単一の簡潔な正しいソリューションはない」としていますが、ブリヂストン・アメリカスにプレディクティブコーディングの使用を認める以外に、本当に他の方法はあったのでしょうか。世界中の大規模訴訟を見てみても、200万件のドキュメントは膨大な数と言えます。そして、世界でも有名なテクノロジ企業である被告が、現在世に出ているテクノロジの中でも最良のものを使わないよう原告に求めるというのは、ちょっと不思議な気がします。
重要なのは、TARがクライアントにとってメリットをもたらすと思うのであれば、それを使うかどうかについて可及的速やかに検討すべきだということです。訴訟が始まった段階からそれができているのが理想的ではありますが、ディスカバリが始まってしまってからでも、今回のケースのように、TARを活用することのコストメリットが大きいこと、そして被告への影響が少ないこと(TARを使ったとしても、被告が要求した「関連性あり」の文書は提供される、など)をきちんと説明することができれば、TARを活用することも無理なことではないのです。
それでは、どのような場合に裁判所はTARの活用を拒否するでしょうか?200万件というのはなかなかたいへんな数なので、今回のケースではTARの活用を拒否するのは想像しにくいですが、もっと小規模のケースであれば、そして、被告が経済的に(もしくはこの事案によって)不利益を被ることが証明できれば、裁判所は原告の要求を退ける可能性もあると思います。
アニサ・ヘンダーソン(米国フロリダ州弁護士/米国ワシントンD.C.弁護士)