もしも…文書管理ができていない状態で米国訴訟の対象になったら
2020年4月28日シリーズ 企業の内部不正におけるデジタルフォレンジック調査 / 事後対応編
2020年4月30日~ AIを使用した監査手法で10分の1以下のコスト削減も ~
【FRONTEO「AI Business Innovation Forum 2019」 講演レポート】
リーガルテックAIを筆頭に、多分野で「自然言語処理×AI」のソリューションを展開するFRONTEOは、11月22日に都内でプライベートイベントを開催しました。リーガルセッションにおいて、ベーカー&マッケンジー法律事務所の井上 朗弁護士が、300名以上の聴衆を前に、グローバル企業が米政府機関による調査を想定し準備を進める上で、監査における大きな課題をAIが解決しつつある、と事例を交えて語った講演を紹介します。
企業の活動にとって大きなリスクとなる調査とは
20年以上にわたってグローバル企業の独占禁止法や競争法案件に対応し、米国司法省との司法取引に日本企業の代理として関わった経験を多数有する井上 朗弁護士(ベーカー&マッケンジー法律事務所 パートナー/ニューヨーク州弁護士/法学博士)は、「AIは蒸気機関の発明やインターネットの発達に匹敵する、極めて大きな意味を持っています」と切り出しました。
「私は21年、泥臭い調査や捜査といった分野で活動してきましたが、こうした職人堅気な分野にもAIが導入され、浸透が進んでいます。アナログが大半を占めているかに見える調査という分野で、AIが威力を発揮し始めていることをご紹介します」
ここでの「調査」とは企業の活動に対して、独占禁止法違反などの疑いで、米国司法省や欧州委員会、公正取引委員会が行う調査のことですが、井上弁護士は、特に米国司法省の調査に絞って話を進めました。
「ビジネスマンは、これから売上を伸ばそうと言う時に、自分たちが調査対象になるとは考えないかもしれませんが、いつか対象になる可能性はあります。その時、一体何が起きるのでしょうか。不幸にも、米国において企業が調査や捜査を受けることになった場合、概ね2つのコースで始まります。1つが連邦大陪審による調査、もう1つがFBIによる捜査です」
98%の企業は、どちらの場合でも調査や捜査に協力し、司法手続きを経てうまく話をまとめ、少しでもダメージを少なくする“軟着陸”を試みます。もし、徹底抗戦する場合は、陪審裁判に進み、嵐のような審議が始まります。ただし、いずれの場合も調査対応で発生するリスクが非常に大きいのが特徴だと井上弁護士は話します。
「典型的なリスクは罰金と禁錮、それに監督処分、保護観察処分です。罰金は非常に高額で、自動車部品のカルテルで4億7,000万ドルの罰金、加えて民事訴訟で約2,000億円を支払った先例があります。禁錮は個人が米国の刑務所に収監されて拘束を受けるということですし、保護観察処分を受けると人事に口出しをされ、人事政策がめちゃめちゃになるリスクを負います」
調査や捜査の対象となった企業はなにをすべきなのか
次に井上弁護士は、調査/捜査の対象になってしまった時、どのように対応したらよいかについて話しました。
「ビジネスとしては当然費用対効果を考えます。徹底抗戦して負けてしまうと、とんでもないリスクが待っているので、そのリスクの大きさも勘案してうまく話をまとめるには、軟着陸の方向で戦略を練ることになります。いずれにせよ、社内にどういった証拠があるのかを調べて分析する“ディスカバリ”の作業が必須となります」
証拠分析の段階を切り抜け、軟着陸の方向に戦略を採った場合、原因分析と再発防止策という2つの条件をクリアしなくてはなりません。特に再発防止策ではコンプライアンスとガバナンス体制をしっかりと作り込めという要請があります。この体制構築では、マニュアルやトレーニングによって会社に基準を浸透させ、さらに自らのチェックが課されます。ところがチェック機能を作る上で、「日本企業のみならず世界的な企業でもうまく導入できない大きな課題がありました」
従来の監査プロセスには大変な費用がかかる
その大きな課題とは、監査の実施に非常に工数がかかるため費用がかさみ、上層部の理解が得られにくいというものです。グローバル展開をしている日本の一部上場企業の例では、調査対象になった時、軟着陸を図り、罰金や服役を減らすことを目標として監査を導入しました。その内容は、独占禁止法と贈収賄の二分野に限定し、営業職員だけを対象として、メールやチャットなどの電子ファイルをチェックし続けるというものでした。
「調査対象の営業職員は175人、期間は1カ月でしたが、分析対象の文書数は27万7,300件と膨大で、言語は日・英・中の3か国語で行われました。費用は弁護士の時間単価3万円で、1カ月間で分析を終えるとすると、弁護士15人で1文書あたり0.7分でチェックしても月間1億1,000万円かかります。数百億円の罰金がかかるかもしれない、皆さんや上司が服役することになるかもしれないリスクを減らす策として導入するとしても、1ヶ月で1億1,000万円は財務面の負担が非常に大きく、会社の上層部を説得するのは非常にハードルが高い。また、15人もの弁護士が1日8時間チェックし続けると、質にばらつきが発生するという問題もあります」
AIが常時監査を現実的な選択肢に変える
常時監査の必要性は弁護士業界で認識され、監査をしなければ軟着陸を図るための議論も難しいということも理解されていましたが、それでも工数と費用を理由に、常時監査の導入は難しいとされてきたのがこれまでの状況でした。これを変えつつあるのが、FRONTEOのAI技術の導入だと井上弁護士は言います。
「FRONTEOのAIを使った監査方法では、対象となる文書を監査システムサーバーに送り、私やベテラン弁護士が作った教師データで鍛えられたAIで分析させ、スコアリング(点数付け)をします。そしてスコアの高い文書だけを弁護士が改めてチェックし、その結果に基づいてインタビューを行い、事実確認をする、というプロセスを取ります。このAIを使った監査方法での月々のコストは、先ほどの1億1,000万円と比べると、10分の1以下という劇的なコスト削減ができます」
調査対応において軟着陸を測る上で、コンプライアンスやガバナンスの体制構築は不可欠になってきています。その体制構築には、監査を欠くことはできないというのがここ10数年の傾向です。井上弁護士はAIを使うことによって、企業における監査を巡る状況が大きく変わることを示唆して、講演を締めくくりました。
「従来の監査は人海戦術で克服できないほどの工数がかかっていたので、なかなか導入が進みませんでしたが、AIの利用によって弁護士の作業を代替可能になりました。しかも私の直近の事例では、連邦司法省と交渉し、AIによる監査が問題ないと認めてもらいました。これからは弁護士の人海戦術ではなく、AIを代替として積極的に活用していく、発想の転換が必要になってくるかもしれません。AIという、第四次産業革命とも言える非常に便利なツールが、調査や訴訟の分野でも非常に重要性を増してきているのです」