トピック解説/コラム

ディスカバリ入門(1/7):ディスカバリベンダー選びは人任せにしない!

国際訴訟の対応は自社単独では難しい

弁護士や現地法人任せのベンダー選びが危険な理由

アメリカの民事訴訟は、日本の訴訟とは多くの点において異なります。最も大きな違いは「ディスカバリ」の有無です。アメリカでは、訴訟が起きた際、裁判所による事実審理(トライアル)が行われるまでに、当事者同士で話し合いの場を持つことが要求されます。この時に行われる重要な手続きが「ディスカバリ」で、当事者が相手方および第三者から証拠を入手するための手続きです。トライアルの前にディスカバリを行って証拠を見せ合うことで、原告・被告双方が「事実」を正しく認識し、当事者同士でできるだけ解決することがこの制度の目的です。

このディスカバリの段階で、証拠の改ざんや隠蔽などがあった場合には、厳しい罰則が定められています。当然、訴訟も不利になるでしょう。手続きの一つだからと言って気を抜いたり他人任せにしたりしてはいけません。

Point!

ディスカバリベンダー選びにおいては、他者の意見をうのみにせず、企業が当事者として確固たるイニシアチブを持って進めるとよいでしょう。そうでないと、本来省くことのできた作業にも莫大な料金が発生し、請求されることになります。

日本に本社のあるS社の場合

ある日、アメリカのとある法律事務所から「訴訟準備中のS社について、レビューをアメリカで行うのでデータを送ってほしい」という連絡がきました。しかし、同社の訴訟については、ディスカバリベンダーである当社がディスカバリを請け負うことで既に合意していました。S社の法務部部長からもベンダーを変更するとの報告は受けていませんし、実際に本部長に確認してみたところ、「私もそのような話は知りません。FRONTEOでレビューを行うことで決めています」と言います。しかし、数日後、その本部長から「法律事務所の言うとおりにしてほしい」という連絡がきたのです。 事情を聞いたところ、当該法律事務所が独断で70名もの弁護士と1年間の契約を交わし、レビューを行う準備を既に進めてしまったということでした。弁護士が指定したアメリカのベンダー以外(今回の場合当社)にレビュー作業を依頼すると、この70名分の弁護上費用が無駄になってしまうので、申し訳ないが発注を取りやめたい、とのことでした。 例えば、上記の例で言えば、弁護士70名と契約を結ぶと、たとえ1年とはいえおよそ30億円の人件費がかかります。しかし、プレディクティブ・コーディング(レビュー作業を、コンピュータを使って行うこと)などの技術を用いるなどして、できるだけ人件費がかからない方法をとれば、コストを10分の1程度に抑えることも可能になります。


法律事務所が直接ベンダーを選びたがる理由

リティゲーション・サポート部がベンダーを選ぶ

どうしてこのような事態が起きてしまったのか考えてみましょう。アメリカの法律事務所には、大抵弁護士の下に「リティゲーション・サポート(Litigation Support)」という部署があります。弁護士が直接ディスカバリベンダーの選定に関与することは少なく、この部署が外部のベンダーと連携し、ディスカバリ作業を進めていくのが一般的です。

S社のケースでは、当社がディスカバリを受注してしまうと、アメリカのベンダーは仕事がなくなってしまいますし、それを束ねるリティゲーション・サポートも仕事が減り、メンツも保てなくなる事態が生じます。そこで弁護士を通じて話を入れてきたと考えられます。

 

訴訟戦略としてコストを考える

1年間に30億円の弁護士費用が生じるとなると、数年越しの訴訟に継続的に対応していくのが難しいのは明らかでしょう。仮に1年間に3億円しか費用がかからないとすると、30億円の予算があれば10年間も争うことができます。予算面だけでの比較ではありますが、この違いは歴然です。訴訟の内容にもよりますが、10分の1のコストで済むなら、じっくりと戦略を練り、有利な和解に持ち込むことは十分可能です。このようにコストコントロールは単なる経費削減ではなく、有利な和解を導きだすために必要不可欠な戦略といえます。

適切なコストコントロールを行うためには、日本企業が当事者として確固たるイニシアチブを持っていなくてはなりません。アメリカの法律事務所や訴えられた現地法人に任せていたのでは、費用も訴訟もコントロールすることはできないのです。

 


正しいディスカバリベンダーの選び方

ディスカバリ費用のほとんどを占めるのはレビュー費用です。よってレビューを担当するディスカバリベンダーの選定は非常に重要といえます。アメリカの法律事務所には、弁護士の他に、リティゲーション・サポートと呼ばれる部署があり、ディスカバリの事案が発生した際には、彼らがベンダー選びを担当し、弁護士は基本的にベンダー選びには関わりません。

国際訴訟が起こった場合、クライアントと直接コミュニケーションを図るのは弁護士ですが、訴訟案件が発生した時点で弁護士とは顧問契約があったとしても、ディスカバリベンダーとは契約がありません。

ですから、基本的にクライアントは自由にディスカバリベンダーを選べるはずなのですが、本社法務部がディスカバリ手続きに不慣れだったり、現地法人任せにしたりすることにより、弁護士にベンダー選びもゆだねてしまうケースが少なくありません。

そうなれば弁護士も自らの法律事務所の売り上げをたかめるために、リティゲーション・サポートが推薦するベンダーを選びます。作業品質の優劣ではなく、利益率やメリットの多寡で選んでしまうということもあるかもしれません。こうなると日本の企業がベンダー選定の基準をたずねても、バイアスのかかった回答しか得られないということもあるでしょう。


Point!

ベンダー選定は企業が行うことを契約書に明記しましょう。

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